短編です


サンドバッグ



雨がぽつぽつと落ちてくる。
空はもうかなり明るくなっている。
垂れ込めていた雲は流れ去り、晴れる兆しは見えるのに。
じめじめとした湿気が肌にまといつき、服の脇辺りに汗が落ちていく。
「糞っ」
誰に言うともなしに口の中で罵る。

ふと顔を上げると、名もない運送屋の倉庫があった。
昼近くのせいか、人影はない。
がらんとした広大な物置に、うずたかく積まれた段ボールの山。
乗り手のいないフォークリフト。
視線を移すと、突然想像もしないものが目に入った。
天井の無骨な梁から吊されているサンドバッグが、揺れもせずぶら下がっている。
最初は何故だろうと訝しんだ。
だが、答えはすぐにわかった。
こうして苛つく時の憂さ晴らし用だ。

サンドバッグを見れば叩きたい。キックミットを見れば蹴りたいと思う。
それが人情?ってなものかは置いておく。
幸い辺りは無人だ。
そっと近寄り、息を詰める。

鈍い音が響いた。
サウスポースタイルから正拳を一発入れた。
まだ鈍ってはいないらしい。
もう一発、サンドバッグが揺れた。

「兄ちゃん、やるねえ」
振り向くと人の善さそうな親父が立っていた。
咎めるでもなく、笑顔を浮かべて腕組みしている。
急に恥ずかしくなり、「すんません」と頭を下げて走り去った。


傘を放り出してきたのを忘れていた。
今頃は、あの物置で作業は始まっているだろうか。
まだ雨がやむ気配はなかった。

浮かんで消えたのは、なにかもわからない。




ふと浮かんで書いてみました。


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